きみは幽し【完】



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瀬戸周にはっきりと想いを打ち明けられたからといって、十年以上も同じ形をしていた私と彼の関係はそう簡単に変わるわけでもなく、私たちは、「ふたり」という単位のまま、高校を卒業するまで隣にいた。


ただ、高校を卒業後、私は隣の県の専門学校に、
周は上京して四年制の大学にそれぞれ進学することを決めていた。


離ればなれになる。

どちらかというと、
その選択を積極的に望んでいたのは周の方だったような気がする。




「周ー、頑張れー」
「今日くらい、鬼畜でいないでくれたまえ」
「なんでよ、頑張るのよ、元サッカー部」
「はあ、だめだ、今日も、花ちゃんおっもい」



卒業式の後、私を荷台にのせて、
周は懸命に自転車を漕いで海へと続く坂道をのぼっている。


周の学ランのボタンはほとんどなくなっていた。
私の知らないところで、周は結構女の子に人気らしい。

だけど、結局、小・中学生の時も、
高校生の時も、周は一度も恋人をつくることなく私の隣にいた。



高校生活最後の日だから、とつまらない理由を見つけて、私は周の自転車の荷台から意地でもおりなかった。共倒れになって坂の下まで転がり落ちる経験も、一度くらいは悪くないだろう。




背中に片耳をつけて、海を見下ろす。

周の忙しない鼓動と、海の鼓動がリンクする。
周のお腹に手を回すと、何故か寂しさが紛れ込んできた。