「花ちゃんは、付き合っていいし好きになっていいっていうけど、
俺は付き合わないし、好きにならないよ」
「そうみたいだね」
「花ちゃんはいいかもしれないけど、俺は、よくない」
「そう」
「花ちゃんが好きだから」
「………」
「ちゃんと言葉にするのはこれが初めてだけど、
知らないって言い続けてほしくないから、もう言ったよ」
「………」
「俺は、ずっと、花ちゃんが好き」
海猫の数は上手に数えられる。
だけど、周に与えられた恋心の欠片を数えるのは下手くそだ。
私は、答えない。
瀬戸周は、私に好意を抱いている。
小学生の頃から、ずっと、私はそれを感じていた。
同じ高校に通う本当の理由、歩幅が違うのに歩くスピードが同じになる秘密、その鍵を握っているのは、私に対する周の気持ちなのだろう。
彼は、常に答えをほしがっている。瞳の中に、澄んだ珊瑚礁を眠らせて、周がもう一度、私の手を自分の手のひらで包もうとした。
すんでのところでその隙間から逃げ出して、
微温くなったココアの缶を掴む。
そして、それを周におずおずと差し出した。
「じゃあ、ココアの最後の一口はこれからも周にあげるよ」
だから、答えを求めないでほしい。
知らないふりをさせてくれないのなら、せめて。
「ふす、……花ちゃん、らしい、な」
青白い顔で私からココアの缶を受け取った周の手は、
微かに震えていた。



