「全て、周が決めることだよ」
「………」
「でも、私に答えを求めているなら、言うよ。周は、付き合っていいし、好きになっていい。私は、いいよ」
迷っていると言うのなら、迷っている表情くらい見せてほしい。
私の答えに、周の顔から一切の感情が消える。
このような瞬間に私は、何度か立ち会ったことがあった。
寒い、凍り付くような炎が常に私の心臓の奥に潜んでいる。
周の手のひらが私の手から離れていく。彼は、そうだね、と自嘲気味に呟いて、徐に携帯を学ランのポケットから取り出した。それから、水平線を見渡すような目の細め方をして、耳元に携帯をあてる。
「もしもし、」
「うん、今日のことだけど」
「好きな女の子がいるから、付き合えない。ごめんね」
呆然としてしまう。
わざとらしくて、瀬戸周は時々残酷だ。
彼が残酷になる理由から、私はいつも必死に目をそらしていた。
携帯をポケットに再びしまって、周はまた私に視線を向けた。
呆れている。人は鏡だ。
だから、きっと今私たちは同じ表情を浮かべているのだろう。
全く違う理由で、私と周は呆れ合っている。



