「俺、今日の昼休みに同じクラスの子に告白された」
「……ほーほー、そうかい」
「で、保留にしてもらってるんだよ」
瀬戸周には、こういうところがある。
人の気持ちを試すようなことを、弱々しい表情にその罪深さを隠して堂々とやってのけるのだ。それは、小学生の頃から変わっていない。
話を逸らしたくて、「寒い寒い」と言ったら、コンクリートの上、周の大きな手のひらにかじかんだ私の手が包まれた。
思わず、隣を見上げてしまう。
「花ちゃん、俺、迷ってる、」
「周の手、冷たいよ」
「今、関係ないよ、それ」
周の冷たい手のひらに、力がこもったのがわかった。
花ちゃん、ともう一度、周の唇が動く。
「俺、その子と付き合ってもいい?」
「寒いね」
「その子のこと、好きになってもいい?」
「……寒い」
「……花ちゃん、質問に答えて」
顔をのぞきこまれる。
もうすでに、わざとらしさはなく、周はとても切実な表情をしていた。
凍てつくような潮風が頬を刺す。
口内からココアの風味が消えてしまわないうちに答えを出さなければならない、と漠然と思って、焦っていた。
今まで、周の体温がほしいと思ったことがない。だから、今、温かいのは、周の手のひらに触れられている部分よりも、周のダッフルコートに包まれている身体だ。
結局、私が一番信頼しているものは、無機物だった。



