きみは幽し【完】





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「花ちゃん、」
「海猫、十三羽目」
「ふす、いっつも思っているけど、数えて何になるの?」
「何にもならない、私が嬉しい。それだけ」
「それは、何よりも意味があるな」
「あと、周とのこの会話、数えなかったら生まれなかった。
そう思うと、意味がないことなんてないのだよ、おわかり?」
「うん、しっかりと、おわかりした」


私と周は、今日も今日とて、また海に来ている。
灯台の下、私たちのお気に入りの場所なのだ。



寒々しい季節が来た。
冬の海は、無慈悲。波の音も凍っている。

今日は、なんとなくお互いが海に行きたい雰囲気をだしていたように思う。放課後、気がついたら、ふたりで、ここにいた。


今日の周はずっともじもじしている。

上品なダッフルコートに身を包んでいる周を見て、羨ましくなり、「寒い」と言ったら、脱いで私に着せてくれたのは十分ほど前のことだろう。

だから、周は薄い学ランで今震えている。



「周のダッフルコートあったかいね。そしてごめん」
「いいよ。花ちゃんが風邪ひいたら、数えてもらえない海猫の数が増える」
「それは、だめだ」
「でしょ、そしたら、俺との会話も減る、で、俺は悲しい、で、夜ご飯がすすまない、で、色々あって、台風が来る」
「それは、まじでだめだね」
「うん、バタフライ効果とかいうやつだよ、知らんけど」



薄く結んだ唇の端をあげて、周はぱちぱちと瞬きをした。