きみは幽し【完】






ブーケを抱える手を変えようとしたら、
はなびらが一枚、道へ落ちていった。


白色のトルコキキョウ。
花言葉は、思いやりだっただろうか。


だけど、このブーケが私の手に渡った時点で、はっきりと矛盾している。

思いやり、なんて一欠片もなかった。




「周、元気ですよ」
「そうかあ、よかった」



どうせもう、きみは金木犀のアイスバーの味も覚えていないでしょう。


夕焼けが終わる。
その隙間に、今、立っていた。


鼻孔をくすぐるのは、潮の匂いと金木犀の香り。

変わらないものなんて、いつか、忘れられてしまう。
変わりゆくものに、取り残されていくのだ。


だけど、変わりたくなかった。


その思いの先で、息を吸い込んで、口角をあげた。



「今日、久しぶりに会いました」
「あら!そうかい」
「彼、元気だったし、とても、幸せそうでした」
「それは、よかったよかった」



だけど、きみ、私は変わりたくなかった。




ーーー「今日、周の結婚式だったんですよ」