しばらくの沈黙の末、「ああ、」と何かピンときたものがあったのか、
晴れた表情で彼女は頷く。
それから、すぐに、首を横に振った。
「あれもうやめたのよ。このご時世、駄菓子屋ははやらねえ、そんな中であんな手の込んだアイス作ってる暇はねえってなあ」
「……そう、なんだ、」
変わらないものなんて、やっぱりない。
変わってほしくないものほど、変わっていく。
金木犀のアイスバーは、もうこの世にはないらしい。
その事実を受け入れるのに、数秒かかってしまった。
こんなことなら、駄菓子屋によらなければよかったのだ。目を瞑ればないのと同じ寂しさくらいは見逃すべきだったと思いながら、お辞儀をして去ろうとしたとき、おばあちゃんが、ハッと驚いたような表情を急に浮かべた。
それから、ゆっくりと近づいてくる。
「もしかして、花ちゃんか?」
「え、」
「おばちゃん、ぼける見込みがないのよお。
だから、常連さんは忘れてねえ。花ちゃんじゃないの、あんた」
最後にここを訪れた高校生の時からもう八年ほど経っていた。
すっかり忘れられていると思っていたから、その体で接していたのに、
おばあちゃんはどうやら思い出してくれたようだった。
世界における金木犀のアイスの損失部分に、
セピア色の幸福がほんの少しだけ積もる。
昔の記憶が蘇って、目の奥が熱くなった。



