きみは幽し【完】

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寂れた看板が、電灯に照らされている。



海に行く前にどうしてもよりたかった場所にたどり着いた。
古びた、駄菓子屋だ。

どうやら、閉店間際だったらしく、
腰を曲げたおばあちゃんが、お店のシャッターを下ろそうとしていた。


駄菓子屋にはいるには相応しくない格好をしている自覚があった。

ワンピースも靴も髪型もパーティー用だ。
何より、ブーケを抱えている。


だけど、どうしても買いたいものがあって、
後ろから、おばあちゃんに恐る恐る声をかける。




「あの、」
「……うん?」



シャッターをおろす手をとめて、振り返ったその顔に、懐かしさが溢れていた。昔より、皺が少し増えたような気がする。変わらないものなんてない。でも、変わらないように見えるものはある。



終わりかけの夕焼けの中で対面すると
おばあちゃんは少しだけ不審そうに眉をよせた。




「なんだい?」
「……金木犀のアイス。まだありますか?」
「金木犀のアイス?」
「はい」