きみは幽し【完】







「ここに問題がふたつ発生しています」
「なになに、周」
「いち、俺がそれを聞いて嫌な気持ちになったこと。に、花ちゃんが可愛いっていうのは自明なのでわざわざ口に出すやつはだめだということ」
「さん、花ちゃんは周が言ってることが、ちょっとよく分かってないこと」
「いや、勝手に問題増やさないでよ」



見せかけの問題をひとつ増やしたら、
周は困ったように笑って溶けたアイスの表面を舐めた。



周が言っていることの意味を、私は本当のことを言うと少しだけ知っている。だけど、知っているからといって、どうにもならないことがある。分からないふりをするのは、愚かだろう。その弱さを、ゆるしてくれなくなったら、私は周に自分の秘密を打ち明けなければいけないと思っていた。

それまでは、どうにか、許されていたかった。




「花ちゃんが可愛いことなんて、俺は小学生の時から知ってる」
「……そう」
「花ちゃんは、俺が吉住の件について、なんで嫌な気持ちになってるか知ってる?」
「知らない。……でも、」
「でも?」
「周が知ってほしいって思っているんだろうなってことはずっとなんとなく分かっている。それで、その上で、知らないって私は言い続けるつもり」
「そう」



周の伏し目は、寂しい匂いがする。

一度、周は海に目を落としたけれど、
次の瞬間には、顔をあげて頼りない微笑みを浮かべていた。



「そんな花ちゃんには、アイスの最後の一口を差し上げます」