ローウェは穏やかな気持ちでシルウィンを見つめていると、不意に視界の隅で自分を手招きする人影を見つけた。ローウェはシルウィンに「少し手洗いに行くから絶対動かないでね」と伝え、人影に近づいていく。その人影は顔に布を巻きつけ、青みがかった紫水晶の瞳を覗かせた。
「何しに来たんです? 宰相様がこんなところ来ていいんですか? 護衛もなしに」
「はは、友の門出を祝いに来てな。特別だ」
ローウェが問うと、顔に布を巻きつけた人物、この国の宰相であるダリウス・シャイルリードはおかしそうに笑い、王都の方角を見つめる。
「まさに今、王都の民の殆どが辺境の聖女を弔っている。しかし本人が船で国を発とうとしているとは、誰も思っていないだろうな」
「ええ。皆シルウィンを死んだと思っていますからね」
「一方で、生き残ったほうは悲惨だな」



