シルウィンは違和感を覚えながら馬車を降りる。御者はただ立ち止まるばかりでこちらを案内する気配もなければ、自分を出迎える使用人の姿も見えず、シルウィンは御者へと振り返った。
「ねえ、他の使用人の方はどちらに?」
「屋敷の中でございます。どうぞお進みください」
促されるまま、シルウィンは歩いていく。シルウィンの靴は初めての顔合わせ、美しくあろうとヒールの高いものを選んでいたために、ごつごつとしたレンガ造りの道筋を歩いていくには向いていない。
シルウィンは歩きづらさを感じながら屋敷へと向かっていく。すると、馬車の中からは双子のように見えていた屋根が、きちんと二つ、別の屋根として存在していることに彼女は気づいた。
(別邸……?)
シルウィンは注意深く目の前の建物を見つめる。大きな、おそらくディルセオンの本邸らしき屋敷に沿うように、小ぶりな屋敷が立っていた。屋根の色も外壁も同じだがどことなく小さな屋敷のほうが新しい。



