しかし、この国に潜んでいる吸血鬼は、およそ国民の三分の一。呪具はすでに三つしか存在していないが元を辿れば五つのみ。それらも使い捨て、いわば吸血鬼が譲歩し、人間が己に対抗する手段を持ち、人間を立てることで平和が訪れるならと妥協をした結果だった。
だが、王家は現状を良しとしていたわけじゃない。呪具を量産しようとした過去が確かにあったのだ。元よりある一つ、香炉を用いて。
そして吸血鬼を殺すための香炉を量産するためには、吸血鬼が必要であった。何故なら、きちんと効果があることを証明するためには、やはり殺してもいい吸血鬼が必要だったからだ。技術者は香炉を研究し、そしていくつもの試作を作り、吸血鬼に試した。それが、フィノスレードの民だった。
「どうして、どうしてフィノスレードの民を裏切った」
「いわば妥協だよ。王都に吸血鬼はいない。西のリグウォンの民たちは吸血鬼ではないから実験が出来ない。あの地の者の強さは、弱い吸血鬼にも勝る。むしろ全員吸血鬼になってもらいたいくらいなんだが、まぁ今のところ同胞を増やすには契約が必要不可欠だ。手筈が面倒でね。そしてメアロードの家は、力が強いわりに短絡的だ。少しでも怪しげな動きをしてしまえば、王都を焼かれかねないということは君も知っているだろう? 今の当主なんていい例だ。そしてシャイルリード領は海を渡らなければいけない。あそこだけ島のような作りになっているからね、船を出さなくてはいけない。それにダリウスも中々に面倒な性質をしている。だから、いわば消去法というやつだよ」
大公の言葉に、アウラはこれ以上ないほどに奥歯を噛みしめた。どんなに苦痛を受けたとしても本物の呪具でないものでは、吸血鬼を殺せない。



