「これだよ」



見せてくれた表紙は、どこかで聞いたことがあるような気がするミステリー小説だった。


有名なものなのかもしれない。
私は全然本を読まないからわからないけれど。




「三橋さんは何読んでるの?」




優しい温度の声が、心地いい。夏の風が蒸し暑いのか、私の体温が高いのか。分からないけれど火照った頬のまま、「あ、これは漫画です……」とつぶやいた。






毎週金曜日。昼休みと放課後を藤沢くんとこの図書室で過ごして、私たちは少しずつ距離を縮めた、ように思う。


私もあまり気を張らずに藤沢くんに話しかけることができるようになって、彼の知らなかったことを少しだけ知った。