実際問題、ユフェを宮殿に連れ帰ったせいで貴族たちが珍種の猫を献上してイザークの機嫌を取ろうと躍起になっている。キーリにとってそれは頭痛の種になっていた。

 皇族の血を引いているのはイザークただ一人だけ。しかし結婚もしていなければ、世継ぎの予定ももちろんない。ここで途絶えてしまえば内乱が起きるのは必至だ。

「ここで陛下が倒れたら一巻の終わり……猫アレルギーで死ぬとか後世の恥ですからね」

 猫で死ぬ馬鹿な皇帝に仕えたくないというキーリの本音が透けて見えた。
 真顔のイザークは深く頷くと――続いてへにゃりと頬を緩めた。

「分かった分かった。そんなことにならないよう、もっとユフェとの時間を作らなくてはいけないな。他の猫を愛でる隙などないところを見せつければ献上しようとする馬鹿の気も失せるだろう。今度会議にユフェそっくりのぬいぐるみを持ってアピールをしようか」
「いや全然分かってませんよね!?」

 キーリがこめかみに手を当てて突っ込みを入れるが、イザークは上機嫌で笑みを浮かべる。
 ユフェの世話をするのは実に楽しい。手料理を一生懸命食べてくれるところやわざわざ迎えに来てくれるところは堪らなく愛おしい。彼女以外の猫を飼うなんてあり得ない。

「俺は猫ならユフェ一筋だ。浮気なんてしない、絶対に」
「嗚呼、駄目だこの人病気……重度の病気。これが人間の女性なら一番良いのに――想い人に避けられている時点でもうお察しなんだから、そろそろ諦めて別の誰かを見初めて欲しい」


 キーリが壁に額をつけてぶつぶつと愚痴を漏らしたところで、イザークは話題を変えた。