平静を装っているイザークはキーリがいなくなると深い溜め息を吐いて眉間を揉む。

 討伐部隊を撤退させてもカヴァスに命じているのでシンシアの捜索は続行される。一度も連絡がないことは気がかりだが、カヴァスの腕は確かだと自分に言い聞かせた。

(結界があるということは生きている証拠だ。カヴァスが必ず見つけ出してくれる)
 なかなか晴れない不安を抱えたまま、イザークは報告書に目を通し始めた。





 仕事が一段落ついたところで、執務室に戻ってきたキーリがお茶を出してくれた。
「お疲れ様です。陛下が毎日ここで仕事をしてくれると僕は大変助かります」
 イザークは出されたお茶を早速啜った。

「最近は仕事が滞るようなことはしていないだろう。あと場所は関係ない」
「そうは仰いましても……噂になっているんですよ。『雷帝が猫を溺愛して自室に引き籠もっている』って」
 それについては自身も小耳に挟んでいる。それはもう嫌というほどに。
 イザークは不満げな顔になった。

「噂を払拭するためにこうして執務室で仕事をしている。本音を言えば、俺は早くユフェのところに帰りたい」
「下心があるにせよ、陛下が仕事に意欲的になったことは嬉しい限りです。ですが擦り寄ろうとしてくる貴族たちから猫が献上されたらどうするんですか? ユフェ様以外の猫に触れるとアレルギー反応を起こすのに!! 勝手に宮殿内に放たれでもしたら今度こそ死ぬかもしれませんよ!?」