「湯船には浸かれない代わりに濡れたタオルで身体を綺麗にしているわ。あと、瓶底眼鏡で修道女に変装しているけど誰からも臭いって苦情は言われたことないから大丈夫」
聖女は式典や典礼などの公式行事以外で人前に姿を現すことはほとんどない。ましてや人々と気さくに接する機会などないに等しい。
それはシンシアの思い描く聖女像とはかけ離れているものだった。そのため普段のシンシアは、顔の半分を隠すように大きな瓶底眼鏡をかけて一般の修道女に変装している。
もっと近い距離で人々と接し、身近な存在になりたい。誰かの役に立ちたい。そんな想いから市井で活動している。
そして、シンシアが誰からも苦情を言われたことがないのには理由があった。
「毎回言ってるけど私は聖女だから最悪お風呂に入れなくても、自動浄化作用があるから常に清らかな身体なの!!」
シンシアが胸に手を当てて強く主張すれば、ルーカスは微苦笑を浮かべ、リアンは呆れ顔になって溜め息を吐く。
「聖女しか持ち得ない浄化の力をそんなしょうもないことに使わないでください」
浄化の力とは魔物や魔物が巣くう森・ネメトンから放たれる瘴気を綺麗にする力のことだ。この力は聖女にしか使えない。



