「朝の祈りを一緒に済ませようと聖堂入り口で待っていたのに来ないから戻ってきてみれば……。またリアンを困らせているのですか?」
 ルーカスは穏やかな表情のまま眉尻だけを下げる。屈み込むようにして手を差し出してくれたのでシンシアはその手を取って立ち上がった。

「困らせてなんかないわ。ヨハル様に呼ばれているから自分で支度するって言ってるのに、絡んでくるのはリアンの方よ。というか、私もルーカスも十八なのになんで私だけ世話されないといけないの? 私、この国の聖女なのに幼女扱いされてばっかり!!」
 世話人の仕事は聖女の身の回りの世話であり、手取り足取りの育児ではない。にも拘らず、リアンはシンシアの服を脱がせてお風呂に入れようとするのだ。
 不満を漏らせばリアンが頬に手を添えて困った顔をする。
「それはシンシア様が一人だとお風呂に入れないからです。顔だけは歴代聖女の中でも異名がつくほどお美しいのに。信者が知ったらどう思うか……」
「仕方ないでしょう。水が怖いんだから。水嵩のあるもの全般怖くて無理だわ」


 シンシアは肩から下まで浸かるような、水嵩あるものが怖い 。よって湯船に浸かるという行為も恐怖の対象になる。水が怖いと感じるようになった理由をはっきりと覚えていないが、教会に来てからだったように思う。

 ――でも一体何が原因で水が怖くなってしまったんだろう。

 記憶を辿ってもいつも大事なところで霞が掛かって思い出せない。もやもやするのを振り切るように頭を振ると、気を取り直して口を開いた。