帰還が遅くなってしまったことを詫びるため宵のうちに広間へ足を運べば、兄と弟をはじめとする貴族たちが剣を抜いて争っていた。理由はもちろん皇帝の座を手に入れるためだ。

 結果として、兄弟は互いを串刺しにして絶命した。二人を止めようとイザークも自ら剣を抜いたのだが一歩遅かった。異変に気づいて駆けつけてきた先帝専属の近衛騎士や大臣たちはその凄惨な光景を目の当たりにして声を失った。

 しかし、一人室内に佇むイザークを見て次期皇帝が誰なのかを悟ると全員が跪いた。皮肉にもイザークは最後の皇族となり、その場で帝位に就いたのだ。



 後に噂が一人歩きして『雷帝』という異名まで賜ってしまうことになった。それを逆手に取って先帝が病に臥せっている間に甘い汁を吸っていた者や帝位争いの関係者を洗い出し、三年掛けて厳重な処罰を下した。ここ一年で漸く宮殿内は安定し、一息吐いたところだった。
 イザークは拳をきつく握りしめ、唇を引き結んだ。

「国民が苦しむことはあってはならない。原因究明と同時に国民の安全は必ず確保しろ」
 キーリは胸に手を当てて強く頷いた。
「尽力いたします。……懸念事項は瘴気がいつどこで再び発生するかですね。規模が拡大して集落などに被害が出ると大変ですから、目星を付けて警備に当たります。間が悪いことに聖女のシンシア様は失踪中。世間に知れ渡れば大きな混乱を招きますから」
「そうだな。一刻も早くシンシアを見つけ出さなければ。――カヴァス」