しかし、いくら万全な体勢でも調査団が向かう頃には何故か瘴気はすっかり消えている。だからこそイザークは自身の能力を生かして、瘴気発生直後に何が起きているのか確かめようと宮殿を飛び出したのだ。

「結局、原因究明には至らなかった。やっと宮殿内の毒を出し切ったと思えば次は宮殿の外か」
 嘆息を漏らすと皮肉めいた笑みを浮かべた。



 三年前、先帝が崩御してこの国の皇帝になった。
 それまでの宮殿内といえば貴族間の派閥争いに加え、兄弟の帝位争いで荒れていた。

 イザークは三人兄弟の二番目で、二つ上の兄と同じ歳の弟がいた。皆母親はバラバラで兄弟たちは母親やその実家の影響を受けて自分こそが次期皇帝だと主張し、日々争っていた。

 一方でイザークの母は元々身体が弱い人だった。イザークを出産後、産後の肥立ちも悪くそのまま帰らぬ人となった。
 三歳までイザークは後宮で育ったが、他の妃の差し金によって何度も殺され掛けた。
 それに危機感を募らせたのは母の父であるオルウェイン侯爵だ。皇帝に申し出てイザークを後宮から連れ出し、領内で育てた。

 これによって幼少期から十五歳までを侯爵邸で過ごし、宮殿に帰還してからは程なくして先帝から命じられた魔力濃度の調査で辺境地に赴任していた。


 イザークがいた辺境地は魔力濃度が薄い地で、魔法は使えなかった。そのせいで父の訃報も遅くなり、宮殿に急いで帰るも着いたのは喪が明けてからになってしまった。