イザークが倒れていた場所はネメトンに近い場所だった。そのため、猫に似た魔物がいてもおかしくない。しかしユフェには魔物の気配もなければ、額にあるはずの核もない。
 若草色の瞳は芯が強く、穢れを知らない光を宿していた。


「これは奇跡としか言いようがない。きっとユフェは俺の運命の猫だ」
 頬を緩めているとキーリがぼやいた。
「女に腑抜けになる話は数多の歴史書で示されていますが猫で腑抜けになる男って……。お願いですから執務の方は滞りなく進めてくださいね」


 既にイザークは宮殿に帰ってきてからまだ一つも仕事に取りかかっていない。
 やったことといえば部屋の模様替えくらいだ。

「それで? 陛下はどうして突然宮殿を飛び出したのですか?」
 その問いにイザークは僅かに身じろぐと振り返って声を潜めた。
「そのことについてだが――実は救護所付近で瘴気を感じて飛び出した」


 アルボス帝国の皇族は英雄四人のうちの一人、勇者の血を引いている。魔物や瘴気ならば帝国内のどこにいても感知することが可能だ。
 しかし、今回は奇妙な体験をする羽目になった。