「ユフェ、美しいおまえのために『森の宴』を首輪にして贈ろうと思う。きっと似合うぞ」

『森の宴』とは帝国の秘宝のことだ。美しい黄緑色で角度によって赤やオレンジのファイアを持ち、森の中で精霊がダンスを踊っているように見えることからそんな名前がついたという。
 小鳥の卵くらいのそれは、本来皇帝が妃になる女性に贈る品だ。

(いやいや、贈る相手明らか間違ってる。まさしく猫に小判状態じゃないの!)

 豪華絢爛な家具といい、用意する首輪といい、このままでは国庫を食い潰しそうな勢いだ。
 傾国の美女の話は聞いたことがあっても傾国の猫なんて聞いたことがない。
 悪いことはしていないのに、シンシアは悪女になったような気分になって罪悪感でいっぱいになった。

(早くヨハル様か、ルーカスに会って解呪してもらわないと! このままじゃ私のせいで国が滅びてしまう!!)

 ここから教会の距離は人間の足で二時間くらい掛かる。猫の足だと一体どれくらいの時間が必要になるだろうか。
 なによりもまずはこの広大な宮殿内を把握しなければ、外へ出るに出られない。

(とにかく隙を見て逃げないと。使用人の出入り口なら積み荷に紛れてハルストンの市街地まで行けるはず)
 今後の計画を練っていると、扉を叩く音がした。イザークが返事をすると深刻な表情のキーリが部屋に入ってくる。


「陛下、お寛ぎのところ大変恐縮ですが緊急事態です」
「どうした?」
「討伐部隊に派遣されていた中央教会の神官、詩人が行方不明になっています。先ほど中央教会と連絡を取ったのですがその詩人、実は聖女・シンシア様だったんです!!」