頭を動かせば、鋭い紫の瞳と視線がぶつかった。
 イザークは眉間の間を揉みながら上半身を起こすと逃げようとするシンシアを引き寄せた。

「……おまえが俺を救ったのか?」
(はい、そうです。だから私がイザーク様の上に載ったことはどうかお見逃しください。というか、今ならきっと起きたばかりで寝ぼけているだろうし、誤魔化せるのでは?)

 淡い期待を抱いたシンシアは身体を拘束されているので声でしっかりと敬意を示した。
「イザーク皇帝陛下に謁見いたします」

 するとイザークがカッと目を見開いた。
 眉間に皺を寄せ、それはもう魔王に匹敵するくらいの恐ろしく厳めしい顔つきだ。
「なんだ? うななん、にゃにゃーんだと!?」

 想像以上に低い声で尋ねられたシンシアは心の中で悲鳴を上げる。
 イザークの不興を買ってしまったらしい。
 聖力は顕在だがそれ以外は呪われているので人の言葉を話せないようだ。


 つまり弁解の余地なし! からの人生ハードモード! そして処刑台へまっしぐら!

 せめて処刑されるなら人間の姿が良かったと、シンシアは泣き言を心の中で漏らす。
(猫のまま死んだら誰も私がシンシアだって気づいてくれないわ)