「イザーク様、それはおかしいと思います。だってあなたは戴冠式の時からずっと私のことを処刑したかったはずです!! ……はっ、これが世に言うところの幻覚なの!?」

 まさか魔王の核の浄化で力を使いすぎてしまって聖力が弱まり、幻覚を見ているのだろうか。 
 周章狼狽しているとイザークが突っ込みを入れた。

「俺を瘴気の幻覚扱いするな。咎めはしないと以前言ったはずだろう。それになんで俺がシンシアを殺さないといけないんだ?」
「なんでって……それは私が伺いたいです!! 戴冠式の時からずっと怖い顔で私のことをご覧になっていましたし。それにうっかりトマトジュースを零してお召し物を汚してしまいましたし、猫だって欺しましたし。猫の間は聖女の仕事をほぼ放棄していましたので……ここはやっぱり潔く斬首ですか!?」
「するわけないだろう。俺はシンシアが見つからなくてずっと生きた心地がしなかった。ずっと心配してたんだ!!」


 正常だったシンシアの心臓の鼓動が一気に速くなる。

「え、嘘……だって……」
 イザークが顔を手で覆って溜め息を吐くと「嘘じゃない」と否定する。

「怖がらせたのなら謝る。俺は……シンシアを見るとどうにも嬉しくなってしまう。でもそれだと皇帝たる威厳が損なわれてしまうから、保つように目に力を込めていた。本当にすまない」

 今までずっと鋭く睨まれて、嫌われているとばかり思っていた。だからイザークを好きになってもこの気持ちが成就することはないだろうと思っていたのに。

(私がイザーク様を特別だと思うように、あなたも私が特別なの?)
 そう思ったところで、腑に落ちない点が一つだけ残る。