「なんで離してくださらないんですか!! ちゃんとお返ししないとフレイア様に贈れないでしょう!!」
 するとイザークが目を瞬いて首を傾げた。
「なんでここでフレイアが出てくるんだ?」
「フレイア様は将来、イザーク様の妃となられる方です。あの方へ贈るために返して欲しいんですよね?」

 シンシアが真剣な顔で尋ねるとイザークが全力で否定した。
「違う、待ってくれ。フレイアは妃候補にはなっているが俺からすれば可愛い妹だ。それにあの子が本当に好きなのはキーリだから結婚なんてあり得ない」
「えっ!? フレイア様の想い人はキーリ様なのですか!?」

 これまで恋をまともにしたことがなかったから的外れなことを言ってしまったようだ。
 青ざめたシンシアは透かさず謝罪する。

「見当違いなことを口にして申し訳ございません。別の方だったんですね。でもイザーク様の贈りたい方にきちんとお渡しできるよう森の宴はお返ししますから!」
 すると焦れたようにイザークが口を開く。
「だから俺が贈りたいのは……俺がずっと好きなのは……」

 そう言って一旦口を噤むと、真っ直ぐシンシアを見つめる。
「――今、目の前にいる人だ」

 消え入りそうな声でイザークに真実を告げられる。照れているのか彼の頬はほんのりと赤く染まっている。

「え……?」

 イザークは好きな人が今目の前にいると言った。
 これは聞き間違いではないのだろうか。

 呆然と立ち尽くしていると、イザークが優しく両手を握りしめる。その瞳は潤んでいて、どこか切なげで恋い焦がれているようだった。
 ハッと我に返ったシンシアは冷静に口を開く。