(これはお返ししないといけないわ。いつまでも私が持っているのはおかしいから)
 服の下から森の宴を取り出そうと手を伸ばせば、イザークに手首を掴まれる。

「この石は別名『精霊の番石(つがいせき)』という。番石という名前から分かるように、俺も同じ物を肌身離さず持ち歩いていたんだ」

 イザークは服の下に隠していた森の宴のペンダントを取り出してみせる。それはシンシアが身につけている森の宴とそっくりだった。


「これが秘宝と言われる所以はな、魔力を注入すれば相手の居場所が分かる特別な石だからだ。俺はユフェが危険な目に遭わないよう、これを贈った。でも本当は贈りたい人がずっといたんだ」

 贈りたい人と聞いてシンシアの脳裏にフレイアが思い浮かんだ。
 わざわざイザークが魔力を注入して居場所を確認し、こんなところにまで来た理由は大事な秘宝を返してもらうためなのだろう。

(妃候補でもない私が持っているなんて周りにバレたらきっと騒ぎになってしまうわね。……仕方ないわ)


 胸がちくりと痛んだ。
 これがイザークを感じられた唯一の品だったのに。
 シンシアは服の上から森の宴を撫でると覚悟を決めた。

「分かりました。では今すぐに森の宴はお返しします――って、なんで手を放してくださらないんですか? これだとお返しできません!!」
 手を動かそうとすると頑なに止められる。

「だから言っているだろう。贈りたい人がいると」
「はい、分かっておりますとも! だからきちんとお返ししませんと!」

 そう言っているのにイザークの手はがっちり掴んで動かすことを許さない。半ば取っ組み合いになり始めたところで、とうとうシンシアは叫んだ。