皇帝陛下が直々に護衛とはなんとも畏れ多い。
 シンシアはさっと顔を強ばらせると一礼して謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ございません。陛下に飛んだご迷惑を……」
「皆まで言うな。これは俺がやりたかっただけのこと。気にしないでくれ」

 イザークは頭を下げるシンシアの両肩に優しく手を置いて上体を起こすように促した。次に彼はシンシアから離れて泉の側まで歩いて行く。
 瘴気のなくなった泉を一目見て「空気が随分澄んだようだ」と嬉しそうに言った。

 シンシアはイザークの後ろ姿を見ながら指をもじもじとさせていた。

 折角謁見の機会が巡ってきたというのに、いざ目の前にするといろいろな感情が込み上げてきて何から話を始めて良いのか分からない。
 それに加えて今日のイザークはいつもの極悪非道な顔つきとは違い、ユフェの時のように穏やかで柔らかな雰囲気を纏っていた。それは却ってシンシアを困惑させた。


 どう話を切り出すべきか悩んでいると、イザークが先に口を開いた。

「森の宴を贈っておいて正解だった。あれのお陰で居場所が分かったんだ」
「あ……」

 シンシアは祭服の下にある森の宴に手を置いた。これはイザークが猫であるユフェのために贈った品。
 シンシアは呪いが解けて猫ではない。もうユフェではないのだ。