そこまで話したルーカスは「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てて嘲笑った。

「そんなことに何の意味があるっていうんだろうね。叔父上なんて悲願のためにわざわざ騎士のキャリアを捨てて土木技官になったよ。ネメトン周辺の精霊樹を自然災害と見せかけてなくし、フォーレ公爵が記憶視の力を使って計画を知れないようにするためにね」

 ルーカスは一族の悲願に対して嫌悪感を抱いている。その一方で彼らに協力しているのは何故なのだろう。

『どうしてルーカスは宮殿の井戸に魔瘴核を入れたの? それだってベドウィル家の悲願を達成する計画の一つなんでしょう?』

 シンシアが尋ねるとルーカスは「違うよ」と言って肩を竦めてみせる。


「あれは誰が黒幕なのか宮殿に教えてあげただけ。あいつらに復讐するには丁度いいと思った。役立たずで落ちこぼれだと罵っていた俺が英雄になったら、さぞかし悔しいだろうから。まあ、俺の本来の目的はヨハル様のためだけど」
 シンシアは聞き咎めた。
『ヨハル様のため?』
「ああ、そうだ。魔王が復活し、神官である俺が倒せば中央教会の知名度はさらに増すし、アルボス教会全体の寄付金だって増える。そうすれば俺を育てたヨハル様はその功績が称えられて大神官の中でも最高位である教皇になれるんだ!!」

 ルーカスは歩みを止め、シンシアを地面に下ろすと前を見るように顎をしゃくった。
 それに習って前へ視線を向けると、いつの間にか鬱蒼とした樹木が消えて泉がある。

 その真ん中にはこれまで一度も見たことがない大きさの紫色の結晶が佇んでいた。半分は泉に浸かっていて残り半分は樹木に覆われている。
 水面からは濃度の高い瘴気が絶えず発生している。この結晶が魔王が眠る浄化石で間違いなさそうだ。