『待って。ここってもしかしてネメトンの中なの!?』

 思わず声を出すと茂みから狼に似た魔物が数匹現れ、鋭い氷を吐いて突然襲いかかってきた。
 ルーカスは余裕で攻撃をかわすと、鞘から剣を抜いて主流魔法と剣技を組み合わせた一撃で魔物を仕留める。息の根を止められた魔物は灰となって消え、魔物の核だけが地面に残った。
 ルーカスは剣に付いた血を払うと鞘に収める。

「そう。ここはネメトンの中。西の結界は時々薄くて脆くなるからそれを狙って破って侵入した。あんたには自動浄化作用があるから一緒にネメトンに入っても大丈夫だって仮説を立てたけど……予測は当たっていたみたいだ」

 黒い瘴気が目の前に現れても、たちまち光を纏って霧散する。ルーカスの言うとおり、シンシアが側にいれば瘴気を防ぐことができるようだ。
 聖女の自動浄化作用がこんな形で誰かの役に立つとは知らず、シンシアは驚いた。同時にルーカスは何が目的で結界を破り、ネメトンに侵入したのか疑問が残る。

『ルーカスは神官で詩人(バルド)でしょう? こんなの、教会への裏切りよ』
「裏切り? 失礼なことを言わないでよ」

 ルーカスはせせら笑う。次に「心外だなあ」と言って楽しげにシンシアの鼻をつつく。

「脳天気なシンシアにも分かりやすく説明してあげる。ベドウィル家は何代も前から自分たち一族を新たな英雄にしようと画策していたんだ。高祖父の代からゆっくり確実に計画を立てていたよ」