「キーリ様!!」
キーリの存在に気づいたフレイアは瞳を潤ませ、頬をほんのり赤く染めている。
「やっと、やっと、お会いできましたわ。お手紙を書いて出しても一向にお返事をくださらないので心配していましたの」
ベッドを降りたフレイアは、ぱっと駆け出してキーリの胸に飛び込む。
フレイアの想い人とはキーリだった。
後宮に乗り込んだ理由はイザークの妃になりたいからではなく、一向に手紙をよこさない想い人のキーリに会うためだった。
一縷の望みを掛けて後宮入りしたが結局キーリとは一度も顔を合わせることはなかった。そして少しでも様子が知りたくて侍女に変装するという無茶に出たようだ。
(キーリはフレイアが苦手だからな……)
彼の本心を知っているイザークは少し申し訳なくなる。
キーリ曰く、フレイアは一途に愛を向けてくれる素敵な女性が、仕事人間の自分には勿体ないらしい。生真面目な性格上、対等に愛を注げないことに引け目を感じているようだ。
(フレイアは帝国を愛し、発展させようと奔走するキーリが好きなんだけどな)
そのことはキーリ自身が気づいてこそ、初めてフレイアの一途な愛を深く知れるような気がするのでイザークの口からは言わないでおく。
キーリはぎこちない手つきで抱きつくフレイアの肩に手を置いた。
「お返事が滞って申し訳ございません。後日、改めてお返事しますから」
緊張から額に汗を滲ませるキーリを一瞥してカヴァスが口を開いた。
「嗚呼、良かった。ここで『年頃の若くて美しい娘が軽々しく男に抱きつくものではありません』なんて注意したら私が叩いていたけれど、一応君にも分別というものがあるようだ」
「カヴァスにだけは言われたくありません!!」
にんまり笑みを浮かべるカヴァスにキーリは噛みついた。
イザークはフレイアが落ち着いたところを見計らって本題に入ることにした。