『フレイア様はどうなったの? 彼女、様子がおかしかったの』
「分からないわ。私が駆けつけた時には彼女も倒れていたから。ところでどうして猫の姿に戻ってるの?」

 それは自分でも分からない。自分の意思に関係なく姿が猫に戻ってしまった。そしてその後フレイアに捕まって宮殿を歩いていたら彼女の様子がおかしくなって、落ち着かせようとしたら噴水へ放り投げられた。

(瘴気は蛇のようにうねうねと中庭を囲って異動していた気がしたけど、実際に目にしたのは噴水周辺だけだった。残りは一体どこに?)

 じっと考え込んでいると、ロッテがぽんぽんと背中を撫でてくれる。
「シンシアの方は体調不良になったって伝えといたから。取りあえず、元気を出すために何か食べて。温かいスープを持ってくるわね」

 食欲はないがこれ以上心配は掛けたくない。
 シンシアがお礼を言うと、ロッテはまつ毛についた涙を拭い、食事を取りに行った。


 一人残されたシンシアはブランケットに突っ伏した。正直身体が鉛のように重たくて何をするのも億劫だ。若草色の瞳を閉じてじっと横になっていると、廊下から足音が響いてくる。ロッテがスープを持ってきてくれたようだ。
 耳をぴくぴくと動かして様子を窺っていると、歩き方からして彼女のものではなかった。

「ユフェ!! 無事なのか!?」
 開かれた入り口に立っていたのはイザークだった。駆け寄ってくる彼は眉間に皺を寄せて苦悶の表情に満ちている。

(イザーク様、心配してくれているの?)

 ロッテから話を聞く限り、この数日間の態度は素っ気なかった。だからフレイアに夢中になり、もうユフェには興味がないと思っていたのに――それは単なる勘違いだったようだ。
 不謹慎かもしれないがイザークに心配されて胸が高鳴ってしまう。