(大丈夫。この高さなら華麗に着地できるわ)

 自分に言い聞かせて何とか詠唱を終えると、組紐文様の魔法陣が鮮明に現れる。無事に浄化が始まったことを見届けたシンシアは、咄嗟に身体を捻って下を見た。

 しかし次の瞬間、身体が水飛沫を上げて噴水の底へと沈んだ。
 フレイアは自分を地面に叩き付けるのではなく、溺れさせることが目的だったようだ。身体は硬直してしまって思うように動かない。


 目の前にはゆらゆらと揺らめく水面から見える景色が広がっている。

 嗚呼、前にもこんなことがあったとシンシアは頭の中で思う。
 記憶は断片的に見え隠れするだけでうまく思い出せない。
 ふと、修道院の皆の顔が頭に浮かぶ。ヨハルにリアン、ルーカス。優しい修道士や修道女。これは所謂走馬灯だろうか。

 そして何故か最後に浮かんだのは恐ろしくて仕方がなかったイザークだ。
(こんな呆気ない死に方するなら、ルーカスに無理を言って解呪してもらえば良かった)

 息のできなくなったシンシアは肺に溜まっていた最後の空気を吐き出すと、そのまま意識を失った。