「陛下とフレイア様が二人でいるのを見ると心が苦しくてもやもやしない?」

 質問されてこれまでのことを思い返す。確かに、胸の辺りがざわついたりチクチクしたり変な感覚に襲われたのは二人が一緒の時だ。
 シンシアがこっくりと頷けば、ロッテが重ねていたシンシアの手を握りしめる。

「あなたはフレイア様に嫉妬しているのよ」
「嫉妬? なんで私がフレイア様に嫉妬するの?」

 別に自分は貴族の令嬢になりたいなんて願望は持っていない。嫉妬する要素がどこにもないので首を傾げると、ロッテが人差し指を立てた。

「それは、シンシアが陛下に恋してるからよ」
「…………はぁっ!?」

 ロッテの突飛な発言に、シンシアは反応が遅れて素っ頓狂な声を上げた。
 自分がイザークに恋をしている?
 そんなものを抱いているだなんて狂気の沙汰、いや天変地異の前触れだ。

「ロ、ロッテ、気は、気は確か? だって相手はあのイザーク様だよ? 泣く子も黙る前に恐ろしくて失神してしまうあのイザーク様なんだよ? 常識的に考えて。自分のことを殺したくて堪らない相手を好きになると思う? いや絶対ならないから!」

 動揺するシンシアはくわっと目を見開いて捲し立てる。

「恋に常識は通用しない。自分の気持ちに素直になって想いを伝えなければ後悔する時が必ずやって来る――ってこの間、貸本屋で借りた本に書いてあったわ」
 そう言ってロッテは鞄から本を取り出してみせる。最近流行の恋愛小説のようだった。

「も、もうロッテったら私をからかわないでよ!」
「ふふふっ。からかったのはシンシアが先でしょ。びっくりさせないで。危うく欺されるところだったわ」