「おうおう。老い先短い老いぼれの頼みを聞いてくれんというのか。『アルボス帝国に舞い降りた精霊姫』の名で有名なシンシアが身内の頼みすら叶えようとしない心の狭い人間だったとは……」
「ちょっと、今は眼鏡をかけているんですよ。礼拝に来た信者に聞かれたら折角の変装が台なし です!」
 シンシアは声を潜めると辺りをきょろきょろと見回して誰もいないか確認する。

 これまでの努力が水の泡になってしまうのではないかと慌てふためくシンシアに対して、ヨハルはさらに大袈裟に声を大きくする。
「そうかあ。シンシアは行ってはくれぬかあ、聖女なのに。足腰は痛いし、水虫もなかなか治らなくて辛いが、老骨に鞭打って頑張るしかないのう。最近は皇帝陛下にこき使われて疲労困憊だから、うっかりぽっくりなんかしちゃっても仕方ないさのう……ううっ」
「わ、分かりました。行きます! 行きますから!!」

 なんだかんだヨハルの涙声にシンシアは弱い。それに貧民街で倒れていたところを助けてもらったことへの恩返しはしたいと思っている。

 懸念事項が多く納得していないシンシアではあったが、最後は折れて討伐部隊の援護の任務を承諾した。