「当時の火災は事故ではなく、意図的に行われたものです。蝋燭の不始末にしては激しく燃えた跡がありました。それと、不可解なことがもう一つ」

 リアンは一度胸に手を置き、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「火災発生から三ヶ月ほど経った頃、禁書館や保管室と関わりのあった神官や修道士が次々と異動や使節団への派遣を言い渡されました」

 リアンは違和感を覚えて仕方がなかったという。

 時間と共に一人、また一人と関係者が消え、最後の一人になったところでそれは終わりを告げた。何故なら大神官が急逝したからだ。
 最後の一人は葬儀が終わると自ら教会を辞めていったという。

「その者の名前を覚えているか?」
 イザークが尋ねるとリアンは首を横に振る。
「普段は護衛騎士をしていた方で、私とは関わりがなかったものですから。中肉中背としか……でも非番の時、身なりが良かったのでどこかの貴族だと思います」
「話してくれてありがとう。あとはこちらでも調べてみよう」

 貴族なら洗い出しやすい。漸く尻尾を掴めた気がしてイザークが内心ほくそ笑んでいると、リアンが憂いのある表情で訴えた。

「皇帝陛下、いろいろなことが重なって、大変な状況であることは承知しております。ですが、どうかシンシア様を見つけてください」
 リアンは祈るように手を組んで胸に当てる。