『フォーレ公爵家は精霊と人間の間に生まれた子を密かに保護している』

 精霊と人間の間に生まれた子は薬草の知識に長け、生まれてすぐに息を吸うように植物を操ることができたと聞いたことがある。
 フォーレ公爵家がランドゴル伯爵家と違って力を維持できているのはその子のお陰だ。

 きっとそれがリアンなのだろう。シンシア以上に人間離れした美貌は神々しい。一国の女王といっても差し支えないほどの貫禄もあった。


 リアンは静かに口を開いた。

「私は本来皇族との接触などあってはならない身であり、存在を世間に知られてはいけません。それは教会内も同じ。二十年に一度、教会の皆の記憶は忘却薬を使って書き換えています」
 伏し目がちに事情を話すリアンは自分が掟を破っていることに後ろめたさを感じているのか、どこか気まずそうだ。
 イザークは安心させるように厳めしい顔つきを和らげた。

「心配するな。精霊女王の名のもと、ここにいる者全員あなたの秘密は守る。なんならその忘却薬を俺たちに飲ませても構わない」
「えっ?」

 思いも寄らない提案にリアンは驚いて拍子抜けする。
 イザークがまだ不安なのかと尋ねると、彼女は慌てて大丈夫だと答えた。
「シンシアから聞いていた話と随分印象が違います……あの子の思い込みかしら?」

 俯いて誰にも聞こえない声でリアンはぽそぽそと呟いてから、改めて三人を見つめる。
 やがて、決心がついたように口を開いた。