「なんでそれが分かったかというと、過去の帳簿の隙間にメモが挟まっていたらしい」
 当時のヨハルは神官の予言者(ウァテス)で、さらに王都の隣にあるウィスカ教会に赴任していたため火事のことについては詳しく知らない。
 メモを残してくれた神官は高齢者だったので尋ねようにも、今は棺の中で永遠の眠りについてしまっている。


 話を聞いていたカヴァスが「なるほどねえ」と顎を撫でた。

「私が思うに、当時のことは当時そこにいた人に訊いてみるのが一番だ」
「そうなんだが、ヨハル殿が聞いて回ったらしいが詳しいことを知る人間はいなかった」
「込み入った話というのは情理を尽くさないと」


 カヴァスが後ろに視線を送るのでつられてイザークが振り向く。
 室内はキーリとカヴァスの二人だけだと思っていたのに、気づけば見目麗しい修道女が椅子に腰掛けていた。
 気高さと品のある雰囲気からただの修道女ではないとイザークは察した。
 早速カヴァスが修道女を連れてきて紹介する。

「こちらは歴代聖女の世話人であり、薬師でもあるリアンだ」
 リアンは完璧な作法でイザークに一礼する。
「お初にお目にかかります。リアンでございます」
 リアンはおもむろに頭巾の紐を解く。頭からするりと頭巾が滑り落ちると、まとめられた金色の髪と――尖った耳が露わになった。

 それを目にしたイザークはふと、ある噂を思い出した。