シンシアとてやりたくなくて言っているのではない。小さく息を吐くと腰に手を当てて目を眇める。
「ヨハル様、私の欠点を忘れたなんて言わせませんよ?」
 ヨハルは身じろぎして唸った。

 シンシアの欠点、それは攻撃魔法が属する主流魔法がほぼ使えないことだ。困ったことにそれだけはどんなに訓練を受けてもからっきし駄目だった。
(いつもなら教会の神官クラスの護衛騎士を必ずつけてくれるのに。こんなこと初めてだわ)
『一人で』ということは今回本当に誰も手が空いていないらしい。
 自分を守る術があってもそれに加えて相手を倒す力がなければその場を収めることはできない。中級以上の魔物で護衛騎士なしという状況はさすがに心もとない。
 シンシアの中で危険という単語が頭を過った。

「誰も手が空いていないのだ。それに今回は選りすぐりの精鋭である討伐部隊の同伴だから攻撃は彼らに任せて、守護と治癒に専念しておれば大丈夫だ。心配ない」
「ヨハル様がお忙しいのは承知ですけど、この間もヨハル様の代行で典礼を三つ済ませましたよ。主流魔法も使えることですし 、ヨハル様の方が絶対適任だと思います」

 シンシアが断りを入れると、丁度時計塔の鐘が鳴り響く。朝の鐘は聖堂内を一般開放する合図でもあるので、そのうち大勢の信者たちが礼拝しにやって来る。