「私が担当していたネメトンの西の結界に亀裂が入った。何者かに破壊され、中級以上の魔物が帝国内に侵入してしまっている。帝国からは騎士団の討伐部隊が派遣されるが、援護を要請されていてな。だがタイミング悪く、守護と治癒の魔力を持った神官クラス以上は手が空いていない。シンシアよ、今回は一人で騎士団と共に討伐に向かってくれ」

 魔物に対抗する力を持つのは神官クラスだけだ。しかし、教会の修道士や修道女は数多く存在しても、詩人以上 は数十人ほどでかなり数が限られる。
 神官になるには聖書や典礼の膨大な知識を記憶し、何を問われても答えられないといけないことが大前提である。さらに重要なことは精霊魔法を行使する上でティルナ語が話せるかどうかだ。
 魔法には主流魔法と精霊魔法の二つが存在する。


 主流魔法とは魔法使いや魔法騎士が使う魔法のことで、体内に流れる魔力を使い、火と水、風、土の四大元素を用いそれらを組み合わせた一般的な魔法を示す。
 精霊魔法とは、精霊女王の加護を受けた魔法のことで、体内に流れる魔力を使い、精霊の言葉であるティルナ語を詠唱することで行使することができる。治癒や解呪、守護など魔物から身を守り、命を救うための魔法を発動させることができる。
 しかし精霊魔法は主流魔法同様、魔力が一定以上備わっていないと使えないことに加えてティルナ語の発音が非常に難しい。ほとんどの者が神官になれない理由はこのためだった。

 事情を察したシンシアは真面目な顔つきになった。
「聖女の仕事ではなく、神官としての仕事ですね?」
「そのとおりだ。本来ならば聖女であるシンシアを行かせはしないのだがな」
 守護と治癒の魔力はシンシアにも備わっている。最近ではヨハルの魔力を凌ぐほどになっているのでシンシアがいれば騎士団だけでなく、周辺住人も魔物から守ることができ、怪我を治すことができる。
「ついでに結界の調査もしろ、ということですね?」

 確認の意味も込めて尋ねると、ヨハルがああそうだと頷いた。返ってきた答えにシンシアはうーんと唸った。
「いくらヨハル様のお願いでも、今回の件はちょっと……」
「どうして!?」
 当てが外れたヨハルは泡を食った。