それは新緑が芽吹き、爽やかな空気に包まれた初夏。庭園では縁取られた緑のツゲの中に、ゼラニウムやデルフィニウム、ダリアなどの色鮮やかな花が植えられている。
 芝生の上には数多くのテーブルが置かれ、清潔なクロスが敷かれた上には日頃から腕を磨く料理人たちの豪華な料理が並んでいた。

 その日、宮殿では先帝の誕生日のお茶会が開かれていた。爵位のある貴族や大富豪、そして諸外国からも要人が訪れていた。


 十五歳になり、オルウェイン侯爵の庇護から離れて宮殿に戻ったばかりのイザークは、皇子として茶会に出席する予定だった。ところが部屋を出る直前に飲んだお茶には毒が盛られていた。兄弟あるいは妃の差し金であることは容易に想像がつく。

(ここ数日の食事はすべて警戒していたのに……油断した)
 宮殿に戻るまで、侯爵お抱えの薬師から毒の知識と解毒についての指南を受けていた。ある程度毒の耐性をつけているので死ぬことはない。が、これから始まる茶会が試練になることは間違いないだろう。

 嗤笑(ししょう)する兄弟が頭を過った途端、イザークは素直に舌打ちした。絶対に彼らには今の無様な姿を見せたくない。
 目眩と吐き気に襲われて意識朦朧とする中、壁に手をついて歩く。額に珠のような汗を滲ませながら進んでいると、前方に見たことない少女が立っていた。