「フォーレ家の力、記憶視でもどうすることもできなかったのか」
「記憶視は精霊樹があって初めて使えるんだ。世話をする精霊が常若の国へ渡ってしまって数も減っているから、それだけ使える範囲も狭まってくるよ。しかもネメトン付近に精霊樹なんて自然災害で一本も残っていない」


 フォーレ公爵が精霊女王に与えられた力は植物を操る力。
 中でも精霊樹の記憶を視る能力は、精霊樹周辺で起きた出来事を知ることができる。
 イザークは肘掛けに手を置くと、前のめりになっていた身体を椅子の背に沈めた。

「まあまあ。そんなあからさまに落ち込まないで。私だって意地悪がしたくて言っているんじゃないからね。まあでもちょっとした収穫はあったから渡しておくよ」

 後ろ手にしていた手を前に持ってくる。その手の中にあるのは綺麗に畳まれた、けれど泥まみれで穴の空いた布きれと、ひび割れた瓶底眼鏡だ。

「討伐部隊の人間に確認したらシンシア殿が身につけていたものだと言っていたよ」
「どこでこれを見つけた?」

 受け取って布を広げると修道女が頭にかぶる頭巾だった。眼鏡はテンプル部分が湾曲し、ガラスは割れて一部が抜け落ちてしまっている。凄惨な状態の手がかりにイザークは哀感を覚えた。