◇

 夜も更けて辺りが静寂に包まれる頃、窓から覗く空は雲一つなく、月が皓々と輝いていた。


 ユフェの部屋兼仕事部屋でイザークは机の上で肘をつき、手を組んで深刻な表情をしていた。
 肘の間にはキーリから受け取った報告書が置かれていて内容は魔力酔い止めの薬についてと薬師の薬棚で見つけた例の小瓶の中身――魔瘴核(ましょうかく)の欠片についてだった。

 魔力酔い止めの薬は空気中の魔力濃度と体内の魔力濃度の差を中和させて酔いを抑える作用があり、材料には薬草と魔物の核を浄化した清浄核(せいじょうかく)粉末が用いられる。

 服用する人間に多いのは王都から離れた辺境地へ赴任する騎士団や調査団だ。彼らは任務で魔法が使えなくなるといった事態に陥らないよう、日頃から備えていた。

 当然ながら先日の討伐部隊も魔力酔い止めの薬を服用して魔物討伐に臨んでいた。それにも拘らず、戦闘中に全員の魔法が使えなくなってしまった。
 話を聞いた当時は魔法を使えなくする新種の魔物を疑った。しかし、今回のロッテの件とイザーク自らが見つけた小瓶が決定打となり、魔力酔い止めの薬に問題があったことを疑わざるを得なくなってしまった。


 キーリの報告書によれば、魔物の討伐部隊がネメトンへ派遣される数日前に魔力酔い止めの薬が切れていた。
 薬師の管理簿から新たに薬が補充されたことも確認が取れたので薬を回収して調べると、すべてに魔瘴核が含まれていた。