断じて性行為をすることが目的というわけではないが、朱里が泊っていく時は毎回体を重ねる。
しかも基本的に誘ってくるのは向こうだ。
茶目っけのある仕草で人差し指を立てた朱里曰く発情期とのこと。
ただ、こちらとしてもそれは好都合なので、いつも二つ返事で乗り気になっている俺がいた。

そういうわけでその日の晩も暗黙の了解で情事に及んだ俺達なのだが、布を纏わない朱里のとある箇所に目が止まり息を呑んだ。
朱里の手首に不自然な切り傷があったのだ。
肌に走った赤い線は二本あり、間もなく脳内に浮上したリストカットの文字に冷や汗が滲み出てくる。

この痛々しい傷は一体なんだ。
僅かに声を震わせおずおずと訪ねれば、朱里は仕事中腕まくりをしている状態で、大量の書類を運んでいる際に掠ったと苦笑いした。