【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


「いらない。返さなくていい」
「そういうわけにはいきません。グレン様には日ごろの感謝の分もあるのです。ドレスを頂いたり、このままだと……」
「たかが主人が使用人にドレスを贈っただけだろう。感謝など不要だ。感謝される覚えなどない。いいか、使用人が主人に感謝をさせるんだ。感謝が欲しくて俺は……私は生きているわけではない。私は今日ドレスと装飾品を買う。城も建てる」

 店にも向かわず通りの隅で問答を繰り広げる二人を、メアロードの街の人間たちは怪訝そうに見つめる。一人はどう見ても、冷酷な判断を下しながらも確かな手腕を持つことで知られるメアロード家の当主の顔に似ている。

 しかしぶっきらぼうに物事を伝えながらも、自分より年が下の娘に対して、ぽんぽんと言葉の受け渡しをする様子は、街の人間が思い浮かべる普段のメアロード家の当主としてはかけ離れすぎている。メアロード家当主に心酔する者が、その装いを完璧に真似た上で街に訪れたというほうが、人々は納得できるほどだった。

 そんな二人を遠巻きに見つめる街の人間の間から、華やかな香りを漂わせ、一人の人物が二人の元へと近づいていく。その香りを瞬時に察知したグレンは華奢なヒールの足音のする方向に顔を向けると、一気にその顔を歪めた。

「あら、グレン様」

 ルネリアとグレンの前に、可憐な帽子を被り、鮮やかなドレスを纏った人物……キャロラインが笑みを浮かべて立つ。

「キャロライン……」