【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


 そして今度はルネリアに支度を手伝ってもらいながら出かける準備をして、グレンは城を出て行った。グレンはルネリアがどこかへ逃げないよう、監視をしている設定で共に温室へと向かっていくのだが、毎回ルネリアは嬉しそうにグレンに薔薇の成長について説明する。

(これではまるで、嫌な主人とかわいそうな使用人ではなく、物語に出てくるような夫婦のようではないか……!)

 ぎり、と鈍い音がするほどグレンは自身の手のひらを握りしめた。それは、ルネリアが訪れたときから始まったグレンの癖だった。主に、ルネリアへの想いが昂ぶったときにグレンはそれを行う。「可愛い!」「好きだ!」「愛してる!」それらを叫びださないために、奥歯を噛みしめ、手のひらに爪を立てることによって、荒波のように押し寄せる感情をやり過ごすのだった。

 しかしそれにも、限界が来ていることはグレンは痛いほど理解している。

(初めこそ……思い出の中の大切な、穢れて血に染まった自分の世界の中の澄んだ光だと、唯一の透き通るものだと……心の奥底で大切に当時の声や姿、記憶を辿るだけ、そうして生きていくだけで良かった。自分とルネリアは、住む世界が違うのに……)