そんなルネリアの心配を感じ取ったグレンは慌てて自身の手から視線を移し、瞳を泳がしながらルネリアに手を差し伸べた。
「ひ、人が、沢山いる。はぐれてしまってどちらかだけがオペラを見れないなんて事態に陥ってはよくない。キャロラインに申し訳ないしな。そうだキャロラインに申し訳ない。だから、その、手を、私の手を、掴め。いやこれは俺が貴女の手を掴みたいわけではなく、あくまで人命的な、そう、互いの現在位置を把握するための意味合いだ。無粋な気持ちがあるわけではないし、貴女に触れたいわけじゃない。あ、貴女に触れたくないわけじゃないんだ。くそ、こう言ってしまうと不埒な感情を隠している奴みたいじゃないか……違うんだ。えっと、話を整理しよう。俺は、今、貴女を指定の場所まで安全に連れていきたい。しかしその間にはうじゃうじゃと人間が集まっている。このまま行ってしまえば、華奢な貴女は押しつぶされたりしてとても危険だ。……ああ自分で考えて嫌になってきた……全部燃やして貴女に安全な道を……いや駄目だ。オペラが台無しになると結論付けたじゃないか。えっと、話が脱線した。とにかく俺は、貴女を安全にあちらへ運びたい。その為には貴女を抱えたりする手段があるが、流石に安全でも貴女に恥をかかせてしまう。だから最も合理的で安全な、俺の手を掴むということを、貴女にしてほしい。そして、俺も、貴女の手を掴む。手を繋いでいれば、お互い離れないし、安全に向こうに行ける。ど、どうだろうか……?」
グレンが、キャロラインに申し訳なさを感じたことなど、キャロラインと出会ってから一度も無い。むしろその逆は何度もあり「申し訳なく思え」とキャロラインに苛立つことは出会う度にある。



