【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


 しかしルネリアは、足元に気を付けているような気持にはなれなかった。この部屋は、夫人と先代の肖像画に占められている。なのに、グレンの肖像画は一枚もない。

 まるで先代の脳裏には、グレンの存在など無かったのだと、これほどまでに残酷に証明する手段はあったのかと思うほど、書庫は夫人の肖像画で占められていた。

 ルネリアは、グレンの背中を黙って見つめる。グレンは階段を下りると肖像画にも目もくれず、棚を物色し始めた。そしてすぐに目当ての本を見つけると、手に取って中身を確認してから懐に入れる。

「これで用事は終わりだ。早く済んでよかった」

 何の気なしに紡がれる声色に、ルネリアは唇を噛んだ。

 グレン様は先ほど、父が亡くなってから入ることが出来たと言った。だというのに、すぐに目当ての本を見つけた。今に至るまで、本棚の場所を忘れない程度には、迷わず目当てのものを探し当てられるくらいには、この書庫に立ち入ったことがあるという何よりの証明だ。