【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


「このままお前を、何も見なかったことにしろと命じて帰したところで、きっとお前は私に不信感を抱き、眠れぬ夜を過ごすことになるだろう。だから、今から私は、私について話をする。吸血鬼の力について話をするのは、今日が最初で、そして最後だ。明日から、お前は今夜のことを一切考えるな。その代り今夜だけは、お前の問いに全て答える」

 グレンはルネリアの返事を待つことなく、淡々と話しながらルネリアの目を真っすぐ射抜く。その瞳は何か覚悟を決めたように思えて、ルネリアは自身の腕を掴んだ。グレンはそんなルネリアを見て一瞬顔を歪めると、自身が置いた杯を掴み、彼女に見せる。

「この国の童話で記されている吸血鬼に対する解釈は、概ね正しいものだ。童話に出てくる吸血鬼と同じように、私はこうして、人間の血液なしではいられない。豚や牛の血を飲むこともあるが間に合わせのようなもの。父もそうして生まれた。そして、人間の血を吸ってでしか生きられない吸血鬼は、その制約の代わりに莫大な力を持つ。人間に為せない速度、腕力、聴覚、視力、嗅覚……、そして、どれにも当てはまらない、特殊な力……。それらを持ってして、私は……メアロード家は、この国の国境を守る侯爵として存在しているんだ」
「それは、国はグレン様が吸血鬼であることを、知っているのですか?」
「ああ。元より私たちの血族はこの国に降って湧いたわけではない。元々その存在は人共に在った。しかし、遥か昔、吸血鬼の力に怯えた王家の者たちが、討伐をしようと策を練り、そして失敗した。見誤ったんだ。人ならざる者たちの力を。二百年前の反乱は知っているだろう? 民たちの反乱により、王が変わったことを」

 グレンの言葉に、ルネリアは唖然とした。二百年前の反乱は、この国の民であるなら誰しもが知っているものだ。二百年昔、愚王の政策により民たちは苦しみ、そして数々のものが悲しみに包まれた。民たちは反乱を起こすことで、民たちの訴えを以前から聞き入れた愚王の弟が新王として即位し、国はまた平穏を取り戻したという話だ。それらは劇や歌など、様々な物語の土台として、この国の者たちに親しまれている、有名な歴史だった。