グレンに風呂場の鍵を渡したルネリアは、足早に温室へと歩いていく。本当ならルネリアは走りたい気持ちを抱えているが、走らないのはグレンに禁じられているからだ。「メアロード家の使用人たるもの、走るなんて無様な真似をするな」との言いつけを言葉のまま受け取り、今ルネリアは歩いている。
グレンは「走ったら危ない」という、赤子に対するような心配を理由にして出たことなのだったが、当然グレンの回りくどい真意に気付かないルネリアは、慎重に、見苦しくないように早歩きを続け、温室へと到着した。
今の時間ならば、グレン様は入浴中、私がここに来ていることは分からないはず。
ルネリアは、自分がきちんとした花束を作れるか自信が無かった。グレンには幾度となく貰っていたが、自分は作ったことが無く、グレンが贈ってくれるような花束を作れるか不安だった。だからグレンに内密に制作し、きちんと完成したらグレンに捧げようとそう考えた。
ルネリアは温室内に置かれた小さなランタンを頼りに、しゃがみこんで花を見繕っていく。しかし不意に温室の隣を、ずるずるとものを引きずるような音が通っていった。彼女が物陰に隠れながら周囲を伺うと人影が小屋の方へと向かっていく姿が見える。
グレン様が小屋に向かうと、血の匂いがする。
経験上そう定義したルネリアは、その人影を追っていく。グレンであったなら何も心配することはないが、何か別の存在であればグレンに報告する必要がある。温室を出てルネリアがその者の後を追うと、かすかな月明かりに照らされた背中はグレンのものでほっと安堵した。ルネリアが見つめていると、その人影は吸い込まれるように小屋へと入っていく。



