【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


 ルネリアが海を山といえばグレンの中では山となり、ルネリアが東を西だと言えば、グレンはそれを西だと考える。グレンの中ではすべての天秤がルネリアとそれ以外で測られ、ルネリアののる皿は常にその比重を下に傾け、それ以外の皿にはそもそも何ものっていない。そもそも何ものせない。それくらいグレンにとってはルネリアが全てであった。

 だからこそ、グレンは額をこすりつける。己のふがいなさによる落ち込みを誤魔化すために。そして時折額を打ち付け、自分を罰する。そうして暫くたったころ、グレンはとある気配を察知して、その机から額を離した。

 ルネリアが、部屋に向かってきている。

 そう察知したグレンは立ち上がり、じっとルネリアが部屋に訪れるのを待った。するとやがて控えめなノックの音が聞こえてくる。グレンが扉に声をかけると、部屋に入ってきたルネリアは、グレンの額をじっと見た。

「あの、グレン様、お怪我を……?」
「これは新しい健康法だ。お前は気にしなくていい」

 ルネリアの問いかけにグレンはしれっとした顔で答える。徐にルネリアが視線を落とし執務机に目をやった。執務机はグレンがさんざん己の額を叩きこんだことで中央が僅かにくぼんでいる。ルネリアは不思議そうにしながらも、懐から風呂場への鍵を取り出しグレンに手渡した。

「お風呂場の鍵です」
「ああ」

 そっけなくグレンはルネリアから差し出された風呂場の鍵を受け取る。鍵が自分の手から離れたことをルネリアは確認して、グレンに頭を下げた。