【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


(……ああ、嫌われたどころの問題じゃない。自分より四つも年上の男が、ぐずぐず子供のように泣いていたんだ。絶対に、絶対にルネリアの心に深い傷と嫌悪を感じさせたに違いない……)

 グレンは芋虫のように蠢き、机に額をこすりつける。グレンは、ルネリアが人が涙を流したことで、嫌悪をするようなことはしないとは心の奥底では理解している。しかしそれこそが問題で、グレンは「ルネリアは俺のような人間でも、気味悪がりはしないがそれはルネリアの心優しき理性によるもので、実際本能的には気持ち悪がっていてもおかしくはない。そしてルネリアの理性と本能で葛藤が生まれ、俺が気持ち悪いせいでルネリアの精神に莫大な負担がかかっている」という妄想に取りつかれ、延々と額をこすりつけていた。

 すでにグレンの額は赤く色づき、風呂から出てきたルネリアが確実に心配をするほどの仕上がりを見せ始めている。しかしそれどころではないグレンは、心を落ち着けるように額をまたこすりつけた。

(ああ。それにしても、俺は本当になんなんだ……ルネリアを守ると、ルネリアの生活を整えると、そしてルネリアの心の安寧を第一に考えると、そう決めてルネリアを城へと招いたのに、そして今も変わらないのに、俺はルネリアに心を守られ、ルネリアによって生活に潤いが出て、ルネリアのことを考えるだけで心が明るくなっている……。ルネリアを救うはずなのに、俺が救われてどうするんだ。俺が救われていいはずがないのに。俺がルネリアが救われる手伝いをしなければならないのに。どうして俺はこうなんだ。俺は死ねばいい。俺は死ね。俺は死ね、俺は死ね……。しかし今死んでしまったらルネリアを救わずのうのうと死ぬことになる。駄目だ。しかし生きていたくない……。どうして俺はこうなんだ。もっときちんと、ルネリアを光の下へ導いて、その背中を押して消えなければいけないのに)